「AIに仕事を奪われる」という話と「フォワーダーは大丈夫」という話が、同じ業界の中で同時に語られている。
どちらが正しいのか。結論から言うと、どちらも部分的には正しく、部分的には誇張されている。
AIとデジタル化が物流業界に与える影響は、「仕事がなくなる」という単純な話ではなく、「業務が再配分される」という複雑な変化として進行している。この変化を正確に理解するには、「AIが得意なこと」と「人間が担い続けること」を分けて把握する必要がある。
このページでは、AIと物流デジタル化の全体像を、2026年時点の実態をもとに整理する。各テーマの詳細は個別記事に繋げているため、自分に関係する部分から読んでほしい。
物流業界でAI・デジタル化が加速している背景
なぜ今、この話題が広がっているのか
フォワーダーの現場でAIへの関心が高まっているのは、外部からの情報だけが原因ではない。実際に業務の一部が変わり始めているからだ。
書類作成ツールの進化、HS分類の自動提案、輸送ルートの最適化——こうした変化は、すでに一部の大手フォワーダーや外資系で導入が始まっている。完全な自動化ではないが、「人がやっていた作業の一部をシステムが担う」という変化は、確実に進行している。
加えて、2024〜2026年にかけて以下のような外部環境の変化が重なっている。
- 生成AIの実用化が急速に進み、書類作成・翻訳・データ分析のコストが下がった
- 税関システム(NACCS)の高度化と電子申告の範囲拡大
- Flexport・Freightos等のデジタルフォワーダーが定型案件を取り込み始めた
- 大手荷主からのデジタル対応要求(API・EDI連携)が増加している
「脅威」と「機会」の両面を持つ変化
AIとデジタル化は、フォワーダーにとって脅威だけではなく機会でもある。単純作業が自動化される分、人間は付加価値の高い業務に集中できる。デジタルツールを使いこなせる人材の希少性は上がる。荷主のDX対応を支援できるフォワーダーへの需要は生まれつつある。
「脅威か機会か」という問いより、「自分の業務のどの部分が変わるか」を具体的に把握することの方が、判断の精度が上がる。
2026年時点でAIが実際に入り込んでいる業務
書類作成・データ入力領域
インボイス・パッキングリスト・船荷証券(B/L)などの書類作成において、OCRと自然言語処理を組み合わせたツールが実用化されている。荷主から受け取ったデータをもとに書類の初稿を自動生成し、担当者が確認・修正するというフローが一部で導入されている。完全自動化ではなく、「担当者の確認工数を減らす」という使われ方が現実的だ。
単純な転記作業・フォーマット変換の類は、AIが最も得意とする領域であり、この部分での人の作業量は今後も減っていく方向にある。
通関業界にいたとき、同じ書類を毎日少しだけ中身を変えながら作るという作業に、かなりの時間が消えていた。それが今はAIの得意領域になっている。使われていた時間が解放される一方で、その時間で何をするかを考える必要が生まれている。
HS分類の補助・関税率照会
HS(品目分類番号)の特定は、通関業務の中でも専門性が求められる作業のひとつだ。この領域では、商品説明文からHS番号の候補を提示するAIツールがすでに複数存在する。税関当局への事前教示申請の補助ツールとして使われるケースも出てきている。
ただし、AIが提示するHS分類はあくまで候補であり、最終的な判断と申告への責任は通関士が負う。この「責任の所在」が変わらない限り、HS分類業務が完全に自動化されることはない。
輸送ルートの最適化提案
複数の輸送手段・経由地・コストを比較して最適ルートを提案するシステムは、大手フォワーダーを中心にすでに実用段階にある。Flexport・Freightos・Shyppleといったデジタルフォワーダーは、このルート最適化をコアの機能として提供している。荷主が自分でプラットフォームに接続し、リアルタイムで見積もりと輸送状況を確認できる仕組みだ。
この変化は、「フォワーダーが中間に入る必要性」を一部の案件で低下させている。特に定型的な輸送(同一荷主・同一ルート・繰り返し案件)では、その傾向が強い。
輸送状況の自動追跡・通知
貨物の位置情報をリアルタイムで把握し、荷主への自動通知を行うシステムは、多くのフォワーダーで標準化しつつある。担当者が都度確認・連絡していた業務が、システムで自動化される方向に進んでいる。
AIが代替しにくい業務——その理由
荷主との交渉・例外対応・関係性管理
フォワーダーの業務の中で、AIが最も代替しにくいのがこの領域だ。荷主との価格交渉、急な変更依頼への対応、長期的な信頼関係の維持——これらは、定型化できない判断と人間関係が絡み合う業務だ。AIはパターン認識には強いが、「この荷主はなぜこの要求をしているのか」という文脈の読み取りと、それに応じた対応の選択は、現時点では人間の方が圧倒的に優れている。
特に中小荷主や新規顧客の開拓においては、担当者の個人的な信頼関係が受注の決め手になることが多い。この部分はAIが入り込みにくい。
トラブル発生時の判断と責任
貨物の遅延・破損・通関トラブル・天候による船便キャンセルといった例外事態は、フォワーダーの現場では日常的に発生する。こうしたトラブルへの対応は、「正解がひとつではない判断」の連続だ。荷主への連絡のタイミング、代替手段の選択、費用負担の交渉——これをリアルタイムで判断し、関係者に説明しながら動く能力は、AIには現時点で代替できない。
加えて、何かあったときの「責任を取る主体」として人間が必要とされる構造は、法的な観点からも当面変わらない。
規制変更への対応と解釈
関税制度・輸出入規制・経済制裁・原産地規則——これらは頻繁に変更される。新しい規制が出たとき、それを自社の業務にどう適用するかの解釈と判断は、専門知識と経験を持つ人間が行う必要がある。AIは過去のデータには強いが、「まだ事例が少ない新しい規制をどう解釈するか」という領域では、経験を持つ通関士・フォワーダーの判断が不可欠だ。
「奪われる」より正確な表現——業務の再配分
「AIに仕事を奪われる」という表現は、実態を正確に表していない。より正確には、「業務の再配分が起きている」という方が現状に近い。
自動化・効率化が進む業務(人の関与が減る)
- 定型書類の作成・転記・フォーマット変換
- HS分類の初期候補提示
- 定型ルートの見積もり・予約処理
- 輸送状況のトラッキングと顧客への自動通知
当面、人が担い続ける業務
- 荷主との交渉・関係性管理
- 例外・トラブル対応の判断
- 規制変更の解釈と適用
- 新規顧客の開拓・信頼構築
- 複雑な輸送案件の設計
今後新たに生まれる業務
- AIツールの運用・管理・精度検証
- デジタルプラットフォームを活用した荷主へのコンサルティング
- システムと人のハイブリッド対応の設計
「なくなる業務」は確かに存在する。しかし「フォワーダーという職種がなくなる」という話とは、現時点では区別して考える必要がある。
デジタルフォワーダーの台頭が意味すること
新興プレイヤーの現状
Flexport・Freightos・Shyppleなどのデジタルフォワーダーは、プラットフォーム上で見積もり・予約・書類管理・追跡をワンストップで提供する。従来のフォワーダーが電話・メール・FAXで処理していた業務を、システムで自動化している。
ただし、これらのプレイヤーが「フォワーダー全体を代替している」かというと、現時点ではそうではない。対応できるのは主に定型案件であり、複雑な輸送・特殊貨物・規制対応が必要な案件では、依然として人による対応が必要とされている。
デジタルフォワーダーの詳細については、以下の記事で整理している。
→ デジタルフォワーダーとは何か|従来型との違いと今後を整理した
国内大手フォワーダーのDX対応状況
日本の大手フォワーダー各社も、DX投資を加速させている。ただし、その多くは「業務効率化」を目的とした内部システムの改善であり、「人員削減」に直結しているわけではない現状がある。デジタル化が進むことで、一人あたりの処理件数が増える一方、単純作業の人員需要は減少する方向にある。
物流業界の「2026年問題」とDX化
「2026年問題」という言葉は複数の文脈で使われているが、フォワーダー・通関業務の文脈では「デジタル化の波が本格的に現場に届く時期」として捉えるのが実態に近い。具体的には、NACCSの更新と電子申告の高度化、荷主側のデジタル対応要求の増加、大手フォワーダーによるシステム投資の加速、デジタルフォワーダーの台頭による定型案件の取り込みが2025〜2026年にかけて重なっている。
2026年問題の詳細については、以下の記事で整理している。
→ 物流業界の「2026年問題」とは|DX化がフォワーダーに与える影響
フォワーダーとしてAIとどう向き合うか——個人レベルでできること
英語力がなぜ重要になっているのか
物流業界のデジタル化が進む中で、英語力の重要性が高まっている。デジタルフォワーダー・物流SaaSの多くが英語ベースのシステムを使用しており、グローバル本社からの要求・荷主のデジタル対応要求も英語で来るケースが増えている。
英語力がDX時代のキャリアにどう影響するかは、以下の記事で整理している。
→ フォワーダーにとって英語力はなぜ重要になっているのか|DX時代の言語戦略
AIツールを実務に取り入れる
AIを「使う側」に回ることは、フォワーダーとしての価値を維持する上で現実的な方向性のひとつだ。ChatGPT・DeepL等の既存ツールを書類作成・翻訳・情報収集に活用することは、今日から始められる。
物流業界でAIツールを使いこなすための整理は、以下の記事で行っている。
→ 物流業界でAIツールを使いこなすために必要なこと|現場での実践整理
「何もしない」ことの二つの意味
AIとデジタル化の波に対して「何もしない」という状態には、二つの異なる意味がある。「現状を把握した上で意識的に待機する」という選択と、「危機感はあるが判断を先送りしている」という回避だ。どちらの状態にいるかを確認することが、キャリアの判断精度を上げる上で重要になる。
この違いについては、以下の記事で整理している。
→ 何もしない状態に含まれる二つの構造
AIとデジタル化への対応を、キャリア全体で考える
AIとデジタル化への対応は、スキルアップの問題だけではなく、キャリアの方向性の問題でもある。「今の会社でデジタル化に対応するか」「デジタル化が進んでいる外資系や大手に転職するか」「デジタルスキルを副業に活かすか」——これらは、個人の状況によって異なる答えになる。
→ フォワーダーのキャリアパス完全ガイド|年収・転職・将来性をまとめた
よくある質問
フォワーダーの仕事はAIでなくなるか
「フォワーダーという職種がなくなる」という話と「フォワーダーの業務の一部が変わる」という話は区別して考える必要がある。定型的な書類処理・情報転記の業務は自動化が進む方向にあるが、荷主との関係構築・例外対応・規制変更への対応は当面人が担い続ける領域だ。「職種がなくなる」より「業務が再配分される」という表現の方が現状に近い。
通関士の資格はAI時代でも価値があるか
通関申告の最終的な責任を通関士が負うという法的な構造は、AIが進化しても変わらない。HS分類の補助・書類作成の効率化といった形でAIが入り込んでも、判断・確認・責任の主体としての通関士の役割は残る。ただし、デジタルツールを使いこなせる通関士の方が市場価値が高くなる方向にある。
デジタル化に対応するために今から何をすればいいか
会社・年齢・職種によって答えが変わるため一般論は出しにくい。ただ、汎用性が高い準備として「英語でのシステム操作・マニュアル読解ができること」「NACCSの操作に慣れておくこと」「生成AIツールを業務の一部で試してみること」あたりは、多くの人に共通して役立つ方向性だ。
デジタルフォワーダーに仕事を奪われないか
定型案件・シンプルな輸送案件については、デジタルフォワーダーへの流出が進む可能性がある。ただし、複雑な案件・特殊貨物・規制対応・荷主との深い関係性が必要な案件では、デジタルフォワーダーには対応しにくい部分が残っている。「自分が担当している案件のうち、どの部分がデジタル化で代替されやすいか」を把握することが、現実的な判断の出発点になる。
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