「残業を減らそう」という話は、どの会社でも繰り返される。
でも、フォワーダーの現場では、その掛け声がなかなか現実に結びつかない。個人が効率を上げても、チームで工夫しても、どこかで限界がくる。
それは、意識や努力の問題というより、業界の構造に起因している部分が大きい。この記事では、その構造を整理する。「どうすれば残業が減るか」の答えを出す記事ではなく、「なぜ減らないのか」を理解するための材料として読んでほしい。
「頑張れば減る」という前提が成立しない理由
一般的な業種では、業務効率を上げれば残業は減る。仕事の量が一定であれば、処理スピードを上げることで定時に帰れるようになる。
フォワーダーの場合、この前提が成立しにくい。理由は単純で、仕事の量とタイミングが、自分たちでコントロールできない外部要因によって決まるからだ。
船のスケジュール、航空機の出発時間、税関の受付時間、荷主の都合——これらはすべて、フォワーダーの「効率」とは無関係に動いている。どれだけ仕事を速くこなしても、夕方に荷主から急ぎの依頼が入れば、それに対応するのがフォワーダーの仕事だ。
「頑張れば減る」のではなく、「構造が変わらなければ減らない」というのが、フォワーダーの残業問題の実態に近い。
残業が構造的に発生する3つのメカニズム
船・航空機のスケジュールは人間の都合で変えられない
国際物流の根幹にあるのは、船と航空機のスケジュールだ。これは、フォワーダーが何をしても変えられない所与の条件として存在する。
船便のカットオフ(書類締め切り)は、出港の数日前に設定されている。航空便であれば、当日の早朝や深夜が締め切りになることも珍しくない。このスケジュールに合わせて書類を準備し、通関を完了させる必要があるため、「今日は早く終わりたいから明日に回す」という判断が、そもそも取りにくい構造になっている。
年末年始・ゴールデンウィーク前後は、出荷が集中する時期と重なる。このタイミングで残業が増えるのは、個人の問題ではなく業界の需給構造がそうなっているからだ。
荷主の「急ぎ」は就業時間外に発生する
荷主(輸出入を行う企業)の担当者も、フォワーダーの就業時間など気にしていないケースが多い。夕方17時を過ぎてから「明日の便に乗せたい」という依頼が入ることは、フォワーダーの現場では日常的な出来事だ。
この構造の背景には、フォワーダーと荷主の力関係がある。荷主は「サービスを買っている側」であり、フォワーダーは「サービスを提供する側」だ。特に、売上の大きな荷主からの依頼は断りにくく、無理な要求でも対応せざるを得ない場面が生まれやすい。
通関業界で営業をしていたとき、荷主担当者から夜9時を過ぎてから「明日の便に間に合わせてほしい」と連絡が来ることが本当に普通だった。悪意があるわけではなく、荷主側の締め切りがそこにあるだけなのだが、受ける側の消耗は積み重なっていく。
荷主からの理不尽な依頼の構造については、以下の記事で別途整理している。
→ 荷主からの理不尽な依頼への対処法|現場で使えるフレームワーク
属人化した業務は特定の人に集中する
フォワーダーの現場では、業務の属人化が起きやすい。「あの荷主のことはAさんしかわからない」「あのルートの手配はBさんに聞かないといけない」という状況が、多くの職場で発生している。
属人化が進むと、その人物が休めなくなる。有給を取っても連絡が来る、退職しようとしても引き止められる、という状況は、フォワーダーの職場では珍しくない。
これは個人の「仕事を手放せない性格」の問題ではなく、業務の標準化・引き継ぎの仕組みが整備されていない職場の構造的な問題だ。中小フォワーダーほどこの傾向が強い。
会社が残業を「削減できない」理由
フォワーダーのビジネスモデルと人員配置の限界
フォワーダーのビジネスモデルは、基本的に「人が動いてナンボ」の構造になっている。システム化・自動化が進んでいる部分もあるが、荷主対応・書類確認・トラブル処理は依然として人の手が必要な業務だ。
利益率が低い業界特性もあり、人員を余裕を持って配置することが難しい。「ギリギリの人数で回す」構造になっているため、一人が休んだり繁忙期に入ったりすると、残った人の残業で補う形になりやすい。
会社が「残業を減らしたい」と言いながら実現できないのは、多くの場合、意志の問題ではなく、このビジネスモデルと人員構成の問題だ。
デジタル化が遅れている業務フローの問題
日本の中小フォワーダーでは、いまだにFAX・電話・Excelが業務の中心になっている職場が少なくない。書類の作成・確認・共有に手間がかかる分、処理時間が長くなる。
大手や外資系ではシステム化が進んでいるが、その恩恵が中小フォワーダーの現場に届くまでには時間がかかる。荷主側のデジタル化が進む一方で、フォワーダー側の対応が追いついていない職場では、むしろ業務負荷が増えているという逆説も起きている。
物流業界のDX化の現状については、以下の記事で整理している。
→ 物流業界の「2026年問題」とは|DX化がフォワーダーに与える影響(公開予定)
残業が多い職場・少ない職場の構造的な違い
航空フォワーダーと海上フォワーダーの違い
一般的に、航空フォワーダーの方が海上フォワーダーより残業が多い傾向がある。
航空貨物は「スピード」が商品の本質であり、当日・翌日対応が求められる場面が多い。深夜便・早朝便に合わせた対応が必要になるため、勤務時間が不規則になりやすい。残業代が出る分、年収は高めになるが、体力的な消耗は大きい。
海上フォワーダーは、カットオフまでの時間的な余裕が航空より長い分、スケジュール管理がしやすい側面がある。ただし、大口荷主を抱えている場合や、繁忙期(年末・春節前後)は例外だ。
担当荷主のタイプによる差
同じ会社・同じ部署にいても、担当する荷主によって残業時間に大きな差が出ることがある。
急な変更依頼が多い荷主、深夜でも連絡してくる荷主、クレームが多い荷主——こういった荷主を担当しているかどうかで、個人の残業時間は変わる。担当荷主の「質」は、配属や人事によって決まる部分が大きく、本人がコントロールしにくい。
残業の多さが「会社の問題」なのか「担当荷主の問題」なのかを切り分けることが、転職を判断するときの重要な視点になる。
個人レベルでできること・できないこと
構造の問題を理解した上で、個人としてできることとできないことを整理しておく。
できること
- 業務の記録を残し、属人化の解消に向けた引き継ぎ資料を作る
- 荷主への対応時間のルールを、会社・上司を通じて交渉する
- 残業の原因を「荷主起因」「社内起因」「自分の処理速度」に分類して把握する
できないこと(構造的な限界)
- 船・航空機のスケジュールを変える
- 荷主の依頼タイミングをコントロールする
- 会社のビジネスモデルや人員配置を個人の判断で変える
「できないこと」の領域が大きいとわかったとき、「この職場で続けるか」「転職を検討するか」という判断が現実的な問いになってくる。その判断を急かすつもりはないが、構造を理解した上で考えるのと、なんとなく耐えるのとでは、消耗の仕方が変わってくると思う。
この問いをもう少し大きな文脈で考えたい場合は、以下の記事も参考にしてほしい。
→ このまま物流業界で、40代を迎えていいのか。
よくある質問
フォワーダーの平均残業時間はどのくらいか
公開されているデータは少ないが、求人票・口コミサイトの情報を総合すると、月20〜50時間が多くの職場での目安になる。航空フォワーダーや大口荷主を担当している場合は、月60時間を超えるケースも珍しくない。残業代が全額支給されているかどうかも、実態の把握に影響する。
残業が少ないフォワーダーの職場は存在するか
存在する。大手フォワーダーの管理部門・間接部門、担当荷主が固定されていて変動が少ない職場、海上フォワーダーで取り扱い量が安定している部署などは、比較的残業が少ない傾向がある。ただし、転職時に「残業が少ない」と明記されていても、入ってみると実態が異なるケースもある。口コミ情報と実際の求人票を突き合わせて確認する方がいい。
残業を理由に転職する場合、改善する可能性はあるか
「残業が多い理由」が何かによって、転職後の改善可能性は変わる。担当荷主の問題であれば、転職先の荷主構成を確認することで改善できる可能性がある。ビジネスモデルや業界構造の問題であれば、同業他社に転職しても改善しないケースが多い。異業種への転職の方が、残業環境の改善という観点では効果が出やすい場合もある。
残業の問題を転職の文脈で考えるなら
残業が多い職場から離れることを選択肢として考えているなら、転職先の選択肢を整理しておくことが次のステップになる。
物流業界からの転職先と、それぞれの条件については以下の記事で整理している。
→ 物流業界からの転職先一覧|経験が活きる業界・職種を整理した
転職エージェントを使って現職との残業時間・年収を比較検討したい場合は、以下を参考にしてほしい。

