「フォワーダーに英語は必要か」という問いは、業界に入る前から入った後まで、何度も浮かぶ問いだ。
「英語ができなくても仕事はできる」という声もあれば、「英語がないと将来的に厳しい」という声もある。どちらも部分的には正しく、文脈によって答えが変わる。
この記事では、フォワーダー・通関士にとって英語力がなぜ重要になっているのかを、DX化・外資転職・副業の3つの文脈で整理する。「英語を今すぐ勉強すべき」という結論は出さない。自分の状況に合った判断材料として使ってほしい。
現状:フォワーダーの現場での英語の使われ方
英語が必要な場面と不要な場面
フォワーダーの現場での英語の使われ方は、職種・担当荷主・会社の規模によって大きく異なる。
英語が日常的に必要な場面
- 外資系荷主(海外本社が意思決定する企業)とのやり取り
- 海外の協力会社(海外エージェント・船会社の海外拠点)とのメール・電話
- 外資系フォワーダーの社内コミュニケーション(グローバル本社とのレポーティング)
- 英語の貿易書類・契約書の確認
英語がほとんど不要な場面
- 国内荷主のみを担当している場合
- 国内フォワーダーの国内拠点でのオペレーション業務
- 書類処理・NACCSへの申告業務(システムは日本語)
「フォワーダーに英語は必要か」という問いへの答えは、「担当する仕事の性質による」が最も正確だ。ただし、この答えは現時点の話であり、DX化の進展によって変わりつつある。
DX化が英語の重要性を高めている理由
物流業界のデジタル化が進む中で、英語力の重要性が高まっている理由がいくつかある。
デジタルツール・システムが英語ベースになっている
Flexport・Freightos・CargoWise等の物流プラットフォームは英語ベースのシステムだ。これらのシステムを操作する・マニュアルを読む・サポートに問い合わせる場面で、英語の読み書きが必要になる。
通関業界にいたとき、新しいシステムのマニュアルが英語しかなく、操作方法を把握するのに余計な時間がかかった経験がある。英語が読めるかどうかが、デジタルツールへの適応速度に直接影響することを、そのとき実感した。
グローバル本社からの要求が英語で来る
外資系フォワーダーでは、グローバル本社からの方針・レポート要求・システム変更の通知が英語で届く。担当業務が日本語中心でも、社内コミュニケーションに英語が混入する場面が増えている。
荷主のデジタル化要求が英語を含む
大手荷主がデジタルプラットフォームへの移行を進める中で、API連携・EDI設定・システム仕様の確認に英語のドキュメントが必要になるケースが増えている。
デジタルフォワーダーの台頭とDX化の全体像については、以下の記事で整理している。
→ デジタルフォワーダーとは何か|従来型との違いと今後を整理した
外資転職における英語力の現実
外資系フォワーダーで求められる英語レベル
外資系フォワーダーへの転職を検討している場合、英語力の要件は職種・ポジションによって異なる。
英語が必須に近いポジション
- グローバル顧客担当の営業職
- 海外拠点とのコーディネーション業務
- マネージャー以上(英語でのレポーティング・会議が発生)
英語が「あると有利」なポジション
- 国内荷主担当の営業・オペレーション
- 通関業務(国内対応が中心)
「外資系だから全員が毎日英語を使う」わけではないが、「英語が全くできなくても問題ない」という職場は少ない。選考を通過するための最低限として、英語でのメール対応・基本的なビジネス英会話ができる水準が現実的な基準になる。
英語力が転職市場での評価を変える場面
同程度の業務経験を持つ候補者が複数いる場合、英語力が選考の差別化要因になるケースがある。特に以下の場面では、英語力が評価を変えやすい。
- 外資系フォワーダーの選考(英語面接が含まれる場合)
- 商社・メーカーの輸出入担当への転職(海外取引対応が業務に含まれる場合)
- 物流テック・SaaS企業への転職(英語のシステム・ドキュメント対応が必要な場合)
外資系フォワーダーへの転職の実態については、以下の記事で詳しく整理している。
→ 外資フォワーダー転職ガイド|年収・働き方・英語力のリアルを整理した
副業・フリーランスにおける英語力の価値
英語力が副業の幅を広げる
フォワーダー・通関士が副業を考える場合、英語力があることで取り組める副業の幅が広がる。
英語力が活きやすい副業の例
- 越境ECセラーとして英語圏向けに販売する(商品説明・カスタマーサポートに英語が必要)
- 外資系荷主・外国人事業者への貿易実務コンサルティング
- 英語での通関士試験解説コンテンツ(海外在住の日本人向け)
- 海外の物流プラットフォーム・ツールの操作サポート
副業の選択肢全体については、以下の記事で整理している。
→ 物流業界人が始められる副業完全ガイド|選択肢と現実を整理した
フォワーダーが英語力を上げるための現実的なアプローチ
「業務英語」に絞って学ぶことの重要性
フォワーダー・通関士が英語を学ぶ場合、「ビジネス英語全般」より「物流・貿易業務に特化した英語」に絞ることが効率的だ。
物流業務で頻繁に使う英語の文脈は限られている。
- 貿易書類の英語(インボイス・B/L・L/C等の読み書き)
- 海外エージェント・船会社とのメール英語
- 荷主・外資系顧客とのビデオ会議での英語
- 英語のシステム・マニュアルの読解
TOEICのスコアを上げることが目的になりやすいが、フォワーダーとして実際に使う英語のスキルは「物流業務の文脈での英語運用力」だ。スコアより実用性を優先した学習が、業務への影響が出やすい。
学習方法の選択肢
フォワーダーが英語力を上げるための学習方法として、以下が現実的な選択肢になる。
オンライン英会話(業務英語・ビジネス英語コース)
週2〜3回のオンラインセッションを続けることで、6ヶ月〜1年で業務での基本的な英語対応ができる水準に達しやすい。スキマ時間に学べるため、残業が多いフォワーダーの現場でも継続しやすい。
貿易英語に特化したコーチング・講座
物流・貿易の文脈に特化した英語コーチングは、汎用的なビジネス英語講座より業務への反映が速い。B/Lの読み方・インボイスの英語表現・海外エージェントへのメールの書き方といった、業務直結の内容を扱っているコースを選ぶことが効率的だ。
業務の中での実践
現職で英語を使う機会がある場合、業務の中で英語を使うことが最も効率的な学習だ。海外エージェントへのメールを日本語でなく英語で書く・英語の書類を自分で確認してみる——こういった「業務内での小さな実践」の積み重ねが、学習の速度を上げる。
英語力の目標設定の考え方
「どのくらいの英語力が必要か」は、目的によって変わる。
- 現職での業務対応が目的:海外エージェントへのメール・英語書類の読解ができるレベル(TOEIC600〜700点程度が目安)
- 外資系フォワーダーへの転職が目的:英語での面接・日常業務対応ができるレベル(TOEIC700〜800点程度・実際の会話力)
- グローバルな業務・マネジメントが目的:英語での交渉・プレゼン・レポーティングができるレベル(TOEIC800点以上・ビジネス英語の流暢さ)
スコアはひとつの目安に過ぎない。「このポジションで働くために必要な英語は何か」という文脈から逆算して目標を設定することが、無駄のない学習につながる。
英語力とAI翻訳ツールの関係
AI翻訳でどこまで補えるか
DeepL・Google翻訳・ChatGPTといったAI翻訳ツールの精度は、急速に向上している。「英語力がなくてもAIで補える」という考え方は、一定の場面では正しい。
AIで補いやすい場面は以下の通りだ。
- 定型的なメールの翻訳・作成
- 英語書類の概要把握
- 英語マニュアルの内容確認
一方で、AIで補いにくい場面もある。
- リアルタイムの音声コミュニケーション(電話・ビデオ会議)
- ニュアンスが重要な交渉・関係構築の場面
- 専門用語が混在する複雑な文書の正確な解釈
AIツールは「英語力の代替」より「英語力の補助」として位置づける方が現実的だ。AIを使いこなすためにも、基礎的な英語力があることで、翻訳結果の正確性を判断できるようになる。
よくある質問
英語ができないフォワーダーは将来的に不利になるか
担当する業務の性質によって変わる。国内荷主・国内拠点での業務が中心の場合、英語力がなくても当面は影響が出にくい。ただし、転職・副業・キャリアの選択肢を広げたい場合は、英語力があることで選べる方向が増える。「英語ができないと終わり」ではないが、「英語ができるとキャリアの選択肢が広がる」という方が実態に近い。
TOEICは何点あればフォワーダーとして役立つか
業務での実用性という観点では、TOEIC600〜700点程度で海外エージェントへのメール対応・英語書類の読解ができる水準に達しやすい。外資系フォワーダーへの転職を考えているなら700〜800点以上が選考での安心ラインになる。ただし、TOEICのスコアと実際の業務英語力は別物であることを理解しておく必要がある。
英語を学び始めるタイミングはいつが適切か
「いつか英語を学ぼう」という状態が長く続くのは、判断の先送りのパターンのひとつだ。転職・副業・昇進という具体的な目標があるなら、その目標に向けた逆算で学習を始めることが最も効率的だ。目標が明確でない場合でも、週2〜3時間の学習習慣を作ることは、どのタイミングで目標ができても役立つ準備になる。
社会人フォワーダーが英語を学ぶのに向いている方法はあるか
残業が多い職場環境では、通学型の英語学校は続けにくいケースが多い。オンライン英会話・スマホアプリ・通勤時間を活用した音声教材といった、スキマ時間で継続できる方法が現実的だ。物流・貿易の文脈に特化した英語コーチングは、業務への反映が速く、モチベーションを維持しやすいという面がある。

