物流業界でAIツールを使いこなすために必要なこと|現場での実践整理

「AIを使いこなさないといけない」という話を耳にする機会が増えている。

ただ、「AIを使いこなす」とは具体的に何を指しているのかが、曖昧なままになっていることが多い。最新のAIツールを追いかけることなのか、ChatGPTを使えるようになることなのか、プログラミングを学ぶことなのか——方向性がわからないまま焦りだけが増すという状態になりやすい。

この記事では、フォワーダー・通関士が業務の中でAIツールをどう使えるかを、現場の実務に即して整理する。「AIを使いこなせる人材になるべき」という話ではなく、「自分の業務のどこにAIが使えるか」を把握するための判断材料として使ってほしい。

「AIを使いこなす」の意味を整理する

フォワーダーにとって現実的な「AIの使い方」

AIを業務に活かすことを、以下の3つのレベルに分けて考えると整理しやすい。

レベル1:既存のAIツールを業務に使う

ChatGPT・DeepL・Notion AI等の既存ツールを、自分の業務の特定の場面で使う。プログラミングの知識は不要で、ツールの使い方を覚えるだけで始められる。

レベル2:業務プロセスをAIで効率化する

書類作成・翻訳・データ整理といった業務フローの中に、AIツールを組み込んで効率化する。「どの業務にAIを入れると時間が短縮できるか」を考える力が必要になる。

レベル3:AIを活用したシステム・サービスを構築する

プログラミング・API連携・データ分析の知識を使って、自社または顧客向けのAI活用システムを作る。エンジニア的なスキルが必要で、フォワーダーの現場担当者が個人で取り組むには敷居が高い。

多くのフォワーダーにとって現実的なのは、レベル1〜2だ。レベル3は専門職・IT部門の領域であり、現場担当者が全員取り組む必要はない。「AIを使いこなす」という話が、どのレベルを指しているかを確認することが、焦りを減らす第一歩になる。

フォワーダーの業務でAIが使える場面

書類作成・文章生成

ChatGPT・Claude等の生成AIは、定型的な文章の作成・修正・翻訳に使いやすい。フォワーダーの業務では、以下の場面で活用できる。

  • 荷主へのメール文案の作成:「遅延のお詫びメールを書いて」「輸送条件の変更案内を書いて」という形でドラフトを生成し、内容を確認・修正して送る
  • 英語メールの作成・修正:海外エージェントへの英語メールのドラフト生成、または自分が書いた英語メールの表現・文法チェック
  • 社内報告書・議事録の作成補助:メモや箇条書きをもとに、整った文章にまとめる

注意点は、AIが生成した文章には誤りが含まれることがある点だ。特に数字・固有名詞・専門用語は、AIが「それらしい」内容を生成しても、実際には間違っているケースがある。生成した内容を「確認せずにそのまま使う」ことは避けるべきだ。

翻訳・多言語対応

DeepL・Google翻訳・ChatGPTの翻訳機能は、フォワーダーの業務での英語対応を大きく楽にしている。

活用できる場面

  • 英語の貿易書類(インボイス・パッキングリスト・L/C等)の内容確認
  • 英語の規制情報・通達・システムマニュアルの概要把握
  • 海外エージェントからの英語メールの意味確認

AI翻訳は「読む」ことに対しては高い精度を発揮しやすい。ただし、「書く」こと(相手に送るメール・公式書類の翻訳)では、ニュアンスの誤りや不自然な表現が入ることがある。送付前の確認は必須だ。

英語力とAI翻訳の関係は、以下の記事でも整理している。
フォワーダーにとって英語力はなぜ重要になっているのか|DX時代の言語戦略

情報収集・調査

ChatGPT・Perplexity等のAIツールは、情報収集・調査の効率を上げるために使いやすい。

活用できる場面

  • 輸入規制・関税率の概要調査(ただし最終確認は税関・公式ソースで行う)
  • 特定の国・地域の輸出入規制の概要把握
  • 業界用語・国際物流の仕組みの確認

注意点は、AIが提供する情報は最新でない場合や、誤りが含まれる場合がある点だ。特に関税率・規制情報は変更が頻繁なため、AIの回答を「参考」として使い、最終確認は公式ソース(税関ウェブサイト・貿易統計等)で行うことが必須だ。

データ整理・分析

ExcelにAI機能が組み込まれたり、ChatGPTにデータを貼り付けて分析を依頼できるようになっている。フォワーダーの業務では、以下の場面で活用できる。

  • 複数の見積もりデータの比較・整理
  • 荷主別・ルート別の輸送コストの集計・分析
  • 定型的なレポートの自動生成(データを貼り付けて「月次レポートにまとめて」と依頼する)

通関業務でAIが使える場面と使えない場面

使える場面

HS分類の参考情報収集

商品の説明をAIに入力して「この商品のHS分類の候補を教えて」と依頼することで、分類の参考情報を得ることができる。ただし、AIの回答は参考であり、最終的な分類判断は通関士が行う必要がある。AIが提示した分類が正しいかどうかの検証は、関税率表・税関への事前教示等で確認することが必要だ。

通関書類のチェックリスト作成

「輸入申告に必要な書類のチェックリストを作って」という依頼で、業務の抜け漏れ防止に使えるチェックリストを生成できる。ただし、会社・荷主・品目によって必要書類が異なるため、生成されたリストを自社の業務に合わせてカスタマイズする作業が必要だ。

関税法・通関業法の概要確認

「関税法第○条の内容を簡単に説明して」という使い方で、法律の概要を把握するための補助ツールとして使える。ただし、正確な法律解釈・最新の改正内容については、公式の法令集・税関への確認を優先すべきだ。

使えない場面・使うべきでない場面

通関申告の最終判断

AIはHS分類の候補を提示できるが、申告書への記載内容・申告責任はAIには負えない。通関申告の最終判断は通関士が行う必要があり、AIの回答をそのまま申告に使うことは避けるべきだ。

最新の規制・税率の確認

AIの学習データには時間的な制約があり、最新の関税率変更・輸出規制・経済制裁の内容が反映されていない場合がある。規制・税率の確認は、税関の公式ウェブサイト・貿易関係機関の最新情報で行うことが必須だ。

機密情報・顧客情報の入力

荷主の名称・輸送内容・取引条件といった機密情報をAIツールに入力することは、情報漏洩のリスクがある。無料のAIツール(ChatGPT等)は、入力した情報がAIの学習に使われる可能性があるため、機密情報の入力は避けるべきだ。社内規定でAIツールの使用ルールが定められている場合は、その規定に従うことが必要だ。

AIツールを業務に取り入れる際の現実的な手順

ステップ①:自分の業務の「繰り返し作業」を洗い出す

AIが最も効果を発揮しやすいのは、繰り返し行う定型的な作業だ。自分の業務の中で、以下のような作業を洗い出すことが最初のステップになる。

  • 毎日・毎週同じような内容のメールを書いている
  • 同じフォーマットの書類を繰り返し作成している
  • 英語の書類を日本語で確認する作業が毎回発生している
  • 同じようなデータを集計・整理する作業がある

ステップ②:小さく試してみる

洗い出した作業のうち、最もリスクが低いものから試してみることが現実的だ。「荷主への定型メールの下書きをChatGPTで作る」「英語書類をDeepLで翻訳してから確認する」——こういった小さな実験から始めることで、AIツールの使い勝手・限界を把握できる。

最初から「AIで業務を全部効率化しよう」と考えると、うまくいかない場面でモチベーションが落ちやすい。「この一つの作業でAIを使ってみる」という小さな試みから始める方が、継続につながりやすい。

自分がChatGPTを初めて業務的な用途で使ったのは、荷主への説明メールの文案を作るときだった。出てきた文章はそのままでは使えなかったが、「ここを直せばいい」という編集作業として捉えると、ゼロから書くより格段に速かった。

ステップ③:使えた部分・使えなかった部分を把握する

実際にAIツールを使ってみた結果、「ここは使える」「ここは使えない・注意が必要」という判断をする。この判断の積み重ねが、自分の業務に合ったAIの使い方の設計につながる。

「AIは万能ではない」という認識と、「使える場面では積極的に使う」という姿勢のバランスを持つことが、AIツールとの現実的な付き合い方だと思う。

AIツールとキャリアの関係

「AIを使える人」の価値は上がるか

AIツールを業務に活かせる人材の価値は、上がる方向にある。ただし、「AIを使えること」自体が差別化になる時期は短い。AIツールの普及が進むにつれて、「AIを使えること」は当たり前になっていく。

より長期的に価値を持つのは、「AIを使いながら、AIが苦手な部分(判断・交渉・関係構築・例外対応)を担える人材」だ。AIを補助ツールとして使いこなしつつ、人間にしかできない業務の質を上げることが、フォワーダーとしての市場価値を維持する上で重要になる。

AIへの対応をキャリア判断に組み込む

AIとデジタル化への対応を「スキルアップの問題」として捉えるだけでなく、「キャリアの方向性の問題」として考えることも重要だ。

「今の会社でAIを使いこなせる環境があるか」「AIが得意な領域から離れた業務を担えるポジションに移れるか」——こういった問いをキャリアの判断に組み込むことが、変化の波に飲み込まれずに動く上で役立つ。

AIとデジタル化がフォワーダーのキャリアに与える影響の全体像については、以下のページで整理している。
AIはフォワーダーの仕事をどう変えるか|物流デジタル化の全体像を整理した

よくある質問

ChatGPTをフォワーダーの業務で使う場合、何から始めればいいか

最もリスクが低く効果を感じやすいのは、メールの文案作成から始めることだ。「以下の内容で荷主へのお詫びメールを書いて」という形で依頼し、生成された文章を確認・修正して使う。最初は生成された内容を鵜呑みにせず、必ず確認する習慣をつけることが重要だ。慣れてきたら、英語メールの作成・書類の概要把握といった場面に広げていくことが現実的だ。

通関業務でAIを使う際の注意点は何か

最も重要な注意点は、AIの回答を最終判断に使わないことだ。HS分類の候補・法律の概要・規制情報はAIで参考情報を得ることはできるが、申告内容の最終判断・法律解釈・最新規制の確認は公式ソースと通関士の判断で行う必要がある。また、荷主の機密情報・取引内容をAIツールに入力することは情報漏洩リスクがあるため、避けるべきだ。

AIツールの学習に時間をかける価値はあるか

レベル1(既存ツールを業務に使う)の習得は、それほど時間がかからない。ChatGPTやDeepLを業務で試してみることは、数時間〜数日で始められる。一方、レベル3(システム構築・プログラミング)は、フォワーダーの現場担当者が個人で取り組む必要性は低い。自分のキャリア目標に照らして、どのレベルのAI活用を目指すかを先に決めてから学習時間を設定することが、無駄のない投資につながる。

AIが普及した後もフォワーダーとして働き続けられるか

当面は働き続けられる。AIが代替しにくい業務(荷主との関係構築・例外対応・規制解釈・トラブル対応)は、フォワーダーの仕事の中核として残り続ける。ただし、AIが得意な定型業務だけを担っているポジションは、業務が縮小するリスクがある。自分の業務の中で「AIが代替しにくい部分」をどれだけ担えているかを把握しておくことが、中長期的なキャリア設計の判断材料になる。

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